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抗体陰性の甲状腺機能低下症|橋本病と言い切れない時の考え方

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若手医師・開業を目指す先生へ

抗体陰性の甲状腺機能低下症|橋本病と言い切れない時の考え方

「TSHが高い。FT4も少し低い。だけど、抗TPO抗体も抗サイログロブリン抗体も陰性。これは橋本病としてレボチロキシンを始めてよいのだろうか」

甲状腺機能低下症の外来では、こうした判断に迷う場面があります。特に40代から60代の女性で、甲状腺機能は低下しているのに、橋本病の抗体がはっきりしないケースでは、若手医師ほど「すぐ治療か、再検か、紹介か」で悩みやすいと思います。

  • TSH高値を見たら、すぐチラーヂンを始めてよいのか迷う
  • 抗体陰性なのに甲状腺機能低下症があり、橋本病と言い切れない
  • 無痛性甲状腺炎の低下期を外来でどう疑うか分からない
  • 無痛性甲状腺炎の原因をどう説明すればよいか迷う
  • 甲状腺エコーで無痛性甲状腺炎をどう見ればよいか知りたい
  • 一過性甲状腺機能低下症と永続性甲状腺機能低下症の見分け方を知りたい
  • 開業後に、専門外の甲状腺疾患をどこまで診るべきか不安がある

甲状腺機能低下症は、プライマリケア外来でよく遭遇する疾患です。

ただし、実際の外来では「TSHが高いから、すぐ橋本病として治療する」という単純な判断だけでは危ないことがあります。

特に、抗甲状腺抗体が陰性の症例、一過性の甲状腺機能低下症、無痛性甲状腺炎の低下期、ヨウ素過剰、薬剤性、中枢性甲状腺機能低下症などは、若手医師が見落としやすいポイントです。

この記事では、甲状腺機能低下症の中でも、特に「抗体陰性で橋本病と言い切れないケース」を中心に、外来でどう考えるか、無痛性甲状腺炎の原因をどう整理するか、甲状腺エコーをどう補助的に使うかを解説します。

目次

皆さん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です

皆さん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です。

私は医師歴26年の家庭医療専門医として、地域医療の最前線で診療を続けてきました。あまが台ファミリークリニックでは、内科、小児科、皮膚科、糖尿病内科を中心に、生活習慣病から甲状腺疾患まで幅広い外来診療を行っています。

甲状腺疾患についても、年間延べ1200名以上の患者さんを診療しており、健診異常、倦怠感、体重増加、浮腫、動悸、無症状のTSH異常など、さまざまな入り口から相談を受けています。

若手医師の先生にお伝えしたいのは、甲状腺機能低下症の診療では「数値を見る力」だけでなく、「その数値がなぜ出ているのかを考える力」が重要だということです。

実際のクリニック運営で学んできたことをお伝えします

私は2019年9月に、千葉県長生郡長生村であまが台ファミリークリニックを開業しました。
開業からもうすぐ7年になり、現在は年間約2.5万人の患者さんを診察しています。

クリニック運営は、院長一人の力だけで成り立つものではありません。
現在は、非常勤医師5名、看護師4名、管理栄養士5名、医療事務2名、クリーンスタッフ1名、採用秘書担当1名、外部コンサルタントの教育係2名とともに、日々の診療と組織づくりに取り組んでいます。

だからこそ、この記事でお伝えする内容は、理論だけの話ではありません。
実際に採用し、教育し、スタッフと向き合い、悩みながらクリニックを運営してきた中で大切だと感じていることです。

開業前研修の実績

現在、当院で研修を受けた3名の先生が、それぞれご自身のクリニックを開業し、地域医療の現場で活躍されています。

また、現在も2名の医師が当院で研修を行い、外来診療、クリニック経営、集患、スタッフ採用、組織づくりについて、実際の現場を通して学んでいます。

開業前研修では、単に知識をお伝えするだけではありません。将来、自分のクリニックを開業した時に、患者さんに選ばれ、スタッフと信頼関係を築き、地域で長く続けられる医療機関をつくるための考え方と実践を共有しています。

だからこそ、この記事では、甲状腺機能低下症を「検査値だけ」で判断するのではなく、患者背景、経過、鑑別疾患、甲状腺エコー所見を含めて、外来でどう考えるかをお伝えします。

結論:抗体陰性の甲状腺機能低下症では、すぐ橋本病と決めつけない

まず結論です。

TSH高値、FT4低値または境界低値を見た時、甲状腺機能低下症と判断すること自体は難しくありません。

しかし、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陰性の場合には、すぐに「橋本病による永続的な甲状腺機能低下症」と決めつけない方がよいです。

理由は、甲状腺機能低下症には永続的なものだけでなく、一過性のものがあるからです。

特に、無痛性甲状腺炎では、甲状腺中毒期が軽く見逃され、その後の一過性甲状腺機能低下期で初めて気づかれることがあります。

日本甲状腺学会の診断ガイドラインでも、無痛性甲状腺炎では甲状腺中毒症状が軽度の場合が多く、その後一過性甲状腺機能低下症で気づかれることがあるとされています。※1

つまり、抗体陰性の甲状腺機能低下症を見た時には、次のように考えます。

  • 本当に永続的な甲状腺機能低下症なのか
  • 一過性の甲状腺機能低下症ではないか
  • 無痛性甲状腺炎の経過中ではないか
  • ヨウ素過剰や薬剤性ではないか
  • 中枢性甲状腺機能低下症を見落としていないか

TSH高値を見た時に、まず分けるべき3つのパターン

甲状腺機能低下症の外来では、最初にTSHとFT4の組み合わせを整理します。

1. TSH高値、FT4低値

これは原発性甲状腺機能低下症を考える典型的なパターンです。

症状があり、TSH高値とFT4低値が明らかであれば、レボチロキシン補充を検討します。レボチロキシンは甲状腺機能低下症治療の標準的な薬剤として推奨されています。※2

ただし、ここでも「なぜ低下しているのか」を考えます。橋本病なのか、甲状腺炎後なのか、薬剤性なのか、ヨウ素過剰なのかで、患者さんへの説明もフォローも変わります。

2. TSH高値、FT4正常

これは潜在性甲状腺機能低下症です。

若手医師が最も迷いやすいのがこのパターンです。

TSHが高いからすぐ治療するのではなく、TSHの程度、症状、年齢、妊娠希望、脂質異常症、心血管リスク、抗体陽性の有無、再検で持続するかを見ます。

一般に、TSHが10mIU/Lを超える場合は治療を強く検討し、TSHが10mIU/L以下の場合は患者背景に応じて個別に判断する、という考え方がよく使われます。※3

3. TSH低値または正常、FT4低値

このパターンでは、中枢性甲状腺機能低下症を考える必要があります。

原発性甲状腺機能低下症では、FT4が低ければ通常TSHは上昇します。FT4が低いのにTSHが上がらない場合は、下垂体や視床下部の問題、重症疾患に伴う非甲状腺疾患症候群、薬剤の影響などを考えます。

ここを見落として、TSHだけを見て「甲状腺は大丈夫」と判断しないことが大切です。

抗体陰性なら、橋本病ではないのか

若手医師がよく悩むのが、抗体陰性のケースです。

抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性で、びまん性甲状腺腫があり、甲状腺機能低下があれば、橋本病を考えやすくなります。

一方で、抗体が陰性の場合、橋本病を完全に否定できるわけではありません。

ただし、抗体陰性であれば、「本当に橋本病でよいのか」と一度立ち止まる必要があります。

外来で確認したいポイント

  • 過去に甲状腺中毒症状がなかったか
  • 最近、動悸、発汗、体重減少、手指振戦がなかったか
  • 出産後ではないか
  • 昆布、海藻、ヨウ素含有サプリメント、うがい薬の使用が多くないか
  • アミオダロン、リチウム、免疫チェックポイント阻害薬などの使用がないか
  • 甲状腺腫の有無、圧痛の有無
  • 過去のTSH、FT4の推移

検査値は、その日の一点だけで判断するより、経過を見ることで意味が出てきます。

たとえば、2か月前にTSHが低く、FT4が高めだった患者さんが、今回TSH高値、FT4低値になっている場合は、無痛性甲状腺炎の低下期を考えやすくなります。

無痛性甲状腺炎とは何か

無痛性甲状腺炎は、甲状腺に痛みがない破壊性甲状腺炎です。

「破壊性」という言葉だけ聞くと強い印象がありますが、外来では、甲状腺濾胞が一時的に障害され、甲状腺ホルモンが血中に漏れ出る病態として理解すると分かりやすいです。

典型的には、甲状腺中毒期、甲状腺機能低下期、回復期という流れをとります。

  • 甲状腺中毒期:壊れた濾胞からホルモンが漏れ出て、FT4やFT3が上昇し、TSHが低下する
  • 甲状腺機能低下期:ホルモンの貯蔵が減り、一時的にFT4が低下し、TSHが上昇する
  • 回復期:甲状腺機能が自然に回復していくことが多い

ただし、甲状腺中毒期の症状が軽いと、患者さんも医師も気づかないことがあります。

そのため、外来で「最近だるい」「体重が増えた」「むくむ」「寒がりになった」と相談され、採血でTSH高値、FT4低値を認めて初めて、甲状腺機能低下症として見つかることがあります。

無痛性甲状腺炎の原因をどう考えるか

無痛性甲状腺炎の原因を一言で説明するなら、「自己免疫を背景とした甲状腺の一過性炎症」と考えると理解しやすいです。

無痛性甲状腺炎は、慢性甲状腺炎、つまり橋本病と同じ自己免疫性甲状腺疾患の流れの中で起こることがあります。甲状腺に対する免疫反応が一時的に強まり、甲状腺濾胞が障害されることで、ホルモンが漏れ出し、甲状腺中毒期を経て、その後一過性の甲状腺機能低下期に入ると考えられます。※1

ここで大切なのは、「抗体陰性だから自己免疫性ではない」と単純には言えないことです。

抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陰性でも、臨床経過やエコー所見から自己免疫性甲状腺炎を疑うことがあります。逆に、抗体陽性でも、一時的な変動だけで将来必ず永続的な甲状腺機能低下症になるとは限りません。

原因として考えたい背景

無痛性甲状腺炎を疑った時には、背景として次のような要因を確認します。

  • 橋本病など自己免疫性甲状腺疾患の素因
  • 出産後の免疫変化
  • 過去の甲状腺機能異常
  • 家族歴としての甲状腺疾患
  • 免疫チェックポイント阻害薬など、免疫に影響する薬剤
  • インターフェロン、リチウム、アミオダロンなどの薬剤使用
  • 過剰なヨウ素摂取やヨウ素含有製剤の使用

産後甲状腺炎は、無痛性甲状腺炎と同じような経過をとる代表的な病態です。妊娠中は免疫反応が抑えられ、出産後に免疫が戻る過程で甲状腺に対する自己免疫反応が表面化し、甲状腺中毒期や甲状腺機能低下期を起こすことがあります。※4

また、近年は免疫チェックポイント阻害薬に伴う甲状腺機能異常も重要です。がん治療歴がある患者さんでは、薬剤性の破壊性甲状腺炎や甲状腺機能低下症を必ず確認します。

患者さんへの説明例

患者さんには、次のように説明すると伝わりやすくなります。

「甲状腺そのものが壊れてしまったというより、甲状腺に一時的な炎症が起きて、ホルモンの出方が乱れている可能性があります。最初にホルモンが漏れ出て多くなる時期があり、その後に一時的に少なくなる時期があります。時間とともに戻ることもあるため、数値の変化を見ながら治療が必要か判断していきます。」

この説明をしておくと、患者さんは「一生薬が必要なのか」「すぐ悪い病気なのか」と不安になりすぎず、再検の必要性を理解しやすくなります。

若手医師が注意したいポイント

無痛性甲状腺炎は、一過性で自然軽快することが多い一方で、すべてが必ず完全に戻るわけではありません。

もともと橋本病の素因がある患者さんでは、その後に永続的な甲状腺機能低下症へ移行することもあります。

つまり、無痛性甲状腺炎を疑った場合でも、「放っておけば必ず治る」と説明するのではなく、「多くは一過性ですが、経過を見て、補充療法が必要になるか判断します」と伝えるのが安全です。

無痛性甲状腺炎の低下期をどう疑うか

無痛性甲状腺炎の低下期を疑ううえで重要なのは、今の検査値だけではなく、前後の経過を見ることです。

たとえば、次のような経過では無痛性甲状腺炎の低下期を考えやすくなります。

  • 数週間から数か月前に動悸、発汗、体重減少、手指振戦があった
  • 以前はTSH低値、FT4高値だったが、今回TSH高値、FT4低値になっている
  • 甲状腺の痛みがない
  • TRAbが陰性で、バセドウ病を示唆する所見が乏しい
  • 甲状腺エコーでバセドウ病のような著明な血流増加がない
  • 経過観察で甲状腺機能が自然に回復する

「甲状腺機能低下症で見つかったのに、なぜ甲状腺中毒期の話をする必要があるのですか」

その疑問は自然です。

ただ、無痛性甲状腺炎の低下期では、前段階として甲状腺ホルモンが一時的に漏れ出る時期があった可能性があります。

その時期が軽症で見逃されると、いきなり甲状腺機能低下症として見えるのです。

ですから、抗体陰性で、甲状腺機能低下症の程度が軽く、発症時期が比較的はっきりしている場合は、「これは一生薬が必要な橋本病なのか、それとも一過性なのか」を考える必要があります。

甲状腺エコーで無痛性甲状腺炎をどう見分けるか

若手医師からよく相談されるのが、「無痛性甲状腺炎に特徴的なエコー所見はありますか」という質問です。

結論から言うと、無痛性甲状腺炎をエコーだけで確定診断することはできません。

ただし、エコーは鑑別の補助として非常に役立ちます。特に重要なのは、甲状腺実質のエコーレベル、不均一性、結節の有無、そしてカラードプラで見た血流です。

無痛性甲状腺炎で見られうるエコー所見

無痛性甲状腺炎では、甲状腺実質に低エコー領域を認めることがあります。

ただし、所見は軽い場合もあり、エコーで明らかな異常を認めないこともあります。そのため、「エコーが正常だから無痛性甲状腺炎ではない」とは言い切れません。

典型的には、破壊性甲状腺炎では、炎症部位が低エコーとして見え、カラードプラで血流があまり増えない、あるいは低下して見えることがあります。

亜急性甲状腺炎でも、低エコーで血流低下を示すことがあり、破壊性炎症の所見として参考になります。※5

無痛性甲状腺炎を疑う時のエコーの見方

  • 甲状腺実質に低エコー領域がないかを見る
  • 低エコーが限局性か、びまん性かを確認する
  • カラードプラで血流が著明に増えていないかを見る
  • バセドウ病のようなびまん性血流増加がないか確認する
  • 橋本病を示唆するびまん性低エコー、不均一、微小結節様変化がないかを見る
  • 結節性病変が隠れていないかを確認する
  • エコー所見だけでなく、TSH、FT4、FT3、TRAb、抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体、経過と合わせて判断する

バセドウ病との違いは「血流」を見る

甲状腺中毒症の時期に最も重要なのは、バセドウ病との鑑別です。

バセドウ病では、甲状腺全体の血流が著明に増加し、カラードプラでいわゆる thyroid inferno と呼ばれるような所見を呈することがあります。※6

一方、無痛性甲状腺炎は破壊性甲状腺炎であり、甲状腺ホルモンが過剰に産生されているわけではなく、壊れた濾胞から甲状腺ホルモンが漏れ出ている状態です。そのため、バセドウ病のような著明なびまん性血流増加は通常目立ちません。

ここが若手医師にとって非常に大切なポイントです。

動悸、体重減少、FT4高値、TSH低値だけを見ると、バセドウ病に見えることがあります。しかし、TRAb陰性で、甲状腺血流が増えておらず、経過が一過性であれば、無痛性甲状腺炎を考えやすくなります。

橋本病との違いは「慢性変化」と「経過」を見る

橋本病のエコーでは、甲状腺実質のびまん性低エコー、不均一な内部エコー、線維化を反映する高エコー線状構造、微小結節様変化などが見られることがあります。※7

ただし、橋本病のエコー所見も絶対的ではありません。

抗体陰性でも、エコーで慢性甲状腺炎を疑う所見がある場合があります。一方で、無痛性甲状腺炎も橋本病を背景に起こることがあり、両者は完全に切り分けられないことがあります。

そのため、エコーで「橋本病っぽい」「無痛性甲状腺炎っぽい」と感じても、最終的には検査値の推移と臨床経過を合わせて判断します。

エコーで見分ける時の限界

ここで大切なのは、エコーに過剰な期待をしないことです。

無痛性甲状腺炎には、必ず出る特異的なエコー所見があるわけではありません。

エコーは「確定診断の道具」ではなく、「鑑別を整理する道具」と考える方が安全です。

実際の外来では、次のように使うのが現実的です。

  • バセドウ病を疑うなら、血流増加の有無を見る
  • 橋本病を疑うなら、びまん性低エコーや不均一性を見る
  • 破壊性甲状腺炎を疑うなら、低エコー領域と血流低下を参考にする
  • 結節性病変があるなら、別の評価が必要か考える
  • エコーだけで決めず、血液検査と経過で判断する

レボチロキシンを始める前に確認したいこと

甲状腺機能低下症では、レボチロキシン補充が必要になるケースがあります。

一方で、一過性の可能性がある症例に、十分な説明なく「一生飲む薬」として始めてしまうと、後から患者さんも医師も困ることがあります。

開始前に確認したい5つの視点

  • FT4低値が明らかな顕性甲状腺機能低下症か
  • TSH高値が再検でも持続しているか
  • 症状が甲状腺機能低下症と整合するか
  • 一過性低下を疑う経過がないか
  • 高齢者、虚血性心疾患、副腎不全など、開始時に注意すべき背景がないか

特に高齢者や心疾患のある患者さんでは、急に高用量で開始せず、低用量から慎重に調整することが重要です。

また、まれではありますが、副腎不全が疑われる場合には、甲状腺ホルモン補充を急ぐ前に副腎機能の評価が必要です。副腎不全がある状態で甲状腺ホルモンを補充すると、状態を悪化させる可能性があるためです。

外来で使える実践的な判断フロー

若手医師向けに、実際の外来で使いやすい流れにすると、次のようになります。

TSH高値を見た時の外来判断

  • まずTSHとFT4をセットで見る
  • FT4低値なら顕性甲状腺機能低下症として原因を考える
  • FT4正常なら潜在性甲状腺機能低下症として、TSHの程度と背景を確認する
  • 抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体を確認する
  • 抗体陰性なら、無痛性甲状腺炎の低下期、ヨウ素過剰、薬剤性、産後、非甲状腺疾患を考える
  • 原因検索として、出産後、自己免疫疾患、家族歴、薬剤歴、がん治療歴、ヨウ素摂取を確認する
  • 甲状腺エコーでは、びまん性低エコー、不均一性、結節、血流増加の有無を確認する
  • バセドウ病を疑う場合は、TRAbと甲状腺血流を確認する
  • 症状が軽く、一過性が疑われる場合は、再検と経過観察を選択肢に入れる
  • FT4低値が明らか、症状が強い、TSH高値が持続する場合は補充療法を検討する
  • 判断に迷う場合、甲状腺腫大、結節、妊娠関連、重症例では専門医紹介を検討する

患者さんへの説明は「一生薬です」と決めつけない

患者さんに説明する時は、最初の言葉がとても大切です。

抗体陽性で橋本病が強く疑われ、甲状腺機能低下が明らかな場合は、長期的な補充が必要になる可能性を説明します。

一方で、無痛性甲状腺炎の低下期や一過性の可能性がある場合は、「一生薬が必要です」と最初から言い切らない方がよいです。

説明例

「甲状腺ホルモンが一時的に低くなっている可能性があります。橋本病のように長く治療が必要になるタイプもありますが、炎症のあとに一時的に低くなっているだけで、時間とともに戻ることもあります。ですので、症状と数値の推移を見ながら、薬が必要かどうかを判断していきましょう。」

このように説明すると、患者さんは不安になりすぎず、なおかつフォローの必要性も理解しやすくなります。

専門医紹介を考える場面

プライマリケアで甲状腺疾患を診るうえで大切なのは、すべて自分で抱え込まないことです。

次のような場合は、甲状腺専門医や内分泌専門医への紹介を検討します。

  • 診断に迷う甲状腺機能異常が続く
  • FT4低値が明らかで症状が強い
  • 中枢性甲状腺機能低下症が疑われる
  • 甲状腺腫大や結節を伴う
  • 妊娠中、妊娠希望、産後の甲状腺機能異常
  • 高齢者や心疾患があり、補充療法の調整に慎重さが必要
  • 薬剤性や免疫関連有害事象が疑われる

開業医に必要なのは、すべての疾患を専門医レベルで完結することではありません。

どこまで自院で診て、どこから専門医と連携するかを判断する力です。

こういう外来の迷いこそ、現場で学ぶ価値があります

甲状腺機能低下症の診療は、ガイドラインを読むだけでも一定の知識は身につきます。

しかし、実際の外来では、患者さんの症状、年齢、背景、検査値の推移、抗体の有無、薬剤、妊娠歴、生活習慣、甲状腺エコー所見、紹介先との距離感まで含めて判断する必要があります。

若手医師の先生にとって大切なのは、単に「TSHがいくつなら治療」という暗記ではありません。

検査値を患者背景と合わせて解釈し、患者さんに分かりやすく説明し、必要な時には専門医へつなぐ。その一連の流れを、実際の外来で学ぶことです。

医師歴26年の総合診療・家庭医療の専門医のもとで、甲状腺疾患だけでなく、糖尿病、高血圧、脂質異常症、皮膚疾患、小児疾患、睡眠時無呼吸症候群、肥満治療など、専門分野以外のプライマリケア疾患を幅広く学びたい先生は、開業前研修でトレーニングを積むのも一つの選択肢です。

専門外の疾患も、外来で判断できる力を身につけたい先生へ

あまが台ファミリークリニックの開業前研修では、甲状腺疾患、生活習慣病、小児科、皮膚科、総合診療、クリニック経営、集患、スタッフ採用まで、実際の現場を通して学べます。

まとめ:抗体陰性の甲状腺機能低下症では、原因と経過を見る目が大切です

甲状腺機能低下症は、プライマリケア外来でよく出会う疾患です。

しかし、TSH高値を見て、すぐに橋本病と決めつけるのではなく、FT4、抗体、症状、経過、薬剤、ヨウ素摂取、妊娠・産後、中枢性の可能性を含めて整理することが大切です。

特に抗体陰性の場合には、無痛性甲状腺炎の低下期、一過性甲状腺機能低下症、ヨウ素過剰、薬剤性などを考える必要があります。

無痛性甲状腺炎は、自己免疫を背景とした一過性の破壊性甲状腺炎として理解すると、外来で説明しやすくなります。出産後、薬剤、がん治療、ヨウ素摂取など、背景因子を丁寧に確認することも大切です。

甲状腺エコーは、無痛性甲状腺炎を単独で確定する検査ではありません。しかし、血流増加の有無、低エコー領域、橋本病を示唆する慢性変化、結節性病変の有無を確認することで、鑑別を整理する助けになります。

若手医師にとって重要なのは、甲状腺の数値を暗記することではありません。

目の前の患者さんにとって、その数値が何を意味するのかを考え、必要な検査、再検のタイミング、治療開始、専門医紹介を判断することです。

こうした判断は、実際の外来で症例を積み重ねることで、少しずつ身についていきます。

外来で本当に使えるプライマリケアの判断力を学びたい先生へ

プライマリケアの現場では倦怠感、むくみ、体重増加、健診異常、動悸、不安感、血糖異常、皮膚症状、小児の発熱など、さまざまな入り口から相談されます。

その時に必要なのは、専門医と同じことをすべて行う力ではなく、プライマリケア医として適切に初期評価し、説明し、必要な時に連携する力です。

あまが台ファミリークリニックでは、医師歴26年の総合診療・家庭医療の専門医のもとで、甲状腺疾患を含む幅広い外来診療、クリニック経営、集患、スタッフ採用、組織づくりを、実際の現場で学ぶことができます。

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参考文献

  • ※1 日本甲状腺学会. 甲状腺疾患診断ガイドライン2024. 無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン. https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html
  • ※2 Jonklaas J, Bianco AC, Bauer AJ, et al. Guidelines for the Treatment of Hypothyroidism. Thyroid. 2014;24(12):1670-1751. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4267409/
  • ※3 Garber JR, Cobin RH, Gharib H, et al. Clinical Practice Guidelines for Hypothyroidism in Adults. Endocrine Practice. 2012;18(6):988-1028. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23246686/
  • ※4 Stagnaro-Green A. Postpartum thyroiditis. Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism. 2004;18(2):303-316. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15157841/
  • ※5 Hennessey JV. Subacute Thyroiditis. Endotext. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK279084/
  • ※6 Yuen HY, Wong KT, Ahuja AT. Sonography of diffuse thyroid disease. Ultrasonography. 2016;35(4):316-323. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8409448/
  • ※7 Kim DW. Roles of ultrasound and power Doppler ultrasound for diagnosis of Hashimoto thyroiditis. Ultrasonography. 2014;33(2):112-120. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4137176/
この記事の監修者
細田 俊樹
  • 医療法人社団緑晴会 あまが台ファミリークリニック 理事長
  • 日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医
  • 日本糖尿病学会正会員、日本睡眠学会所属、日本肥満学会所属

年間15,000人以上の患者さんを診察している総合診療専門医。
総合診療という専門分野を生かし、内科、皮膚科、小児科、生活習慣病まで様々な病気や疾患に対応している。
YouTubeでよくある病気や患者さんの疑問に対して解説している