内科外来

胸痛を診た時のプライマリケア医の判断軸|開業前に学びたい見逃さない外来対応

更新日:
内科

若手医師・開業を目指す先生へ

胸痛を診た時のプライマリケア医の判断軸

「胸が痛い」と言われた時、心筋梗塞なのか、逆流性食道炎なのか、筋肉痛なのか。専門外でも、最初の判断を間違えたくない。

これから開業を考えている若手医師の先生の中には、このように感じている方も多いのではないでしょうか。胸痛は、プライマリケア外来で頻度が高い一方で、見逃すと命に関わる疾患が含まれる症状です。この記事では、胸痛を診た時に、心臓か、それとも別の原因かを考えるための判断軸を、開業前に身につけたい外来診療の視点で整理します。

  • 循環器が専門ではないため、胸痛の初期対応に不安がある
  • 心筋梗塞や狭心症を見逃さないための判断軸を学びたい
  • 大動脈解離、肺塞栓、気胸など救急紹介すべき胸痛を整理したい
  • 逆流性食道炎、肋間神経痛、筋骨格系疼痛との見分け方を知りたい
  • 開業後に幅広い症状へ対応できるプライマリケア医になりたい

胸痛診療で最も大切なのは、最初から診断名を当てにいくことではありません。

まず行うべきことは、命に関わる胸痛を見逃さないことです。

心筋梗塞、急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓、緊張性気胸、心タンポナーデなどは、外来で「少し様子を見ましょう」としてはいけない疾患です。

一方で、実際の外来では、胸痛のすべてが心臓由来ではありません。逆流性食道炎、肋軟骨炎、筋筋膜性疼痛、不安発作、帯状疱疹の前駆痛などもあります。

だからこそ、プライマリケア医には、危険な胸痛を拾い上げる力と、よくある胸痛を整理して説明する力の両方が必要です。

目次

皆さん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です

皆さん、こんにちは。あまが台ファミリークリニック院長の細田です。

私は医師歴25年以上の家庭医療専門医として、地域医療の最前線で診療を続けてきました。
あまが台ファミリークリニックでは、内科、糖尿病内科、小児科、皮膚科を標榜し、生活習慣病から小児疾患、皮膚疾患、急性症状まで幅広い外来診療を行っています。

胸痛は、若手医師にとって非常に緊張する症状の一つです。
特に、循環器内科や救急を専門にしていない先生にとっては、「この胸痛を帰してよいのか」「救急搬送すべきなのか」「心電図が正常なら大丈夫と言ってよいのか」と迷うことがあると思います。

私自身も、地域医療の現場で胸痛の患者さんを数多く診てきました。
その中で大切だと感じているのは、胸痛診療では「心臓かどうか」だけでなく、緊急性があるかどうかを最初に判断することです。

実際のクリニック運営で学んできたことをお伝えします

私は2019年9月に、千葉県長生郡長生村であまが台ファミリークリニックを開業しました。
開業からもうすぐ7年になり、現在は年間約2.5万人の患者さんを診察しています。

クリニック運営は、院長一人の力だけで成り立つものではありません。
現在は、非常勤医師5名、看護師4名、管理栄養士5名、医療事務2名、クリーンスタッフ1名、採用秘書担当1名、外部コンサルタントの教育係2名とともに、日々の診療と組織づくりに取り組んでいます。

だからこそ、この記事でお伝えする内容は、理論だけの話ではありません。
実際に採用し、教育し、スタッフと向き合い、悩みながらクリニックを運営してきた中で大切だと感じていることです。

胸痛診療も同じです。教科書で疾患名を覚えるだけでは、実際の外来では迷います。
患者さんの表情、バイタル、痛みの性質、随伴症状、既往歴、心電図、紹介のタイミングまで含めて判断する必要があります。

結論:胸痛は「心臓かどうか」より先に「危険な胸痛かどうか」を判断する

胸痛を診た時、最初に考えるべきことは「これは心臓の痛みか、そうではないか」だけではありません。

もっと大事なのは、この患者さんを今すぐ高次医療機関へつなぐ必要があるかです。

2021年のAHA/ACC胸痛評価ガイドラインでは、胸痛患者に対してリスク層別化と診断プロセスを整理して評価することが重視されています。※1 また、AHAの資料では、急性胸痛ではSTEMIを見逃さないため、心電図を速やかに取得し確認することが推奨されています。※2

つまり、胸痛外来では「問診で何となく大丈夫そう」と判断するのではなく、危険な疾患を拾い上げるために、一定の型を持って評価する必要があります。

胸痛で最初に確認したい危険サイン

  • 冷汗、悪心、嘔吐、息切れを伴う
  • 胸部圧迫感、締めつけ感、重苦しさがある
  • 左肩、左腕、背部、顎、みぞおちへ放散する
  • 労作で誘発され、安静で改善する
  • 突然発症で、これまで経験したことがない強い痛み
  • 血圧低下、頻脈、徐脈、SpO2低下がある
  • 神経症状、左右血圧差、背部痛を伴う
  • 呼吸困難、喀血、片側下肢腫脹を伴う
  • 片側胸痛と呼吸苦があり、気胸が疑われる

胸痛診療の第一歩は、痛みの性質を言語化すること

胸痛の診療では、まず痛みの性質を丁寧に言語化します。

患者さんは「胸が痛い」と表現しますが、その中身はかなり違います。

  • 締めつけられる
  • 圧迫される
  • 焼けるように痛い
  • 刺すように痛い
  • 呼吸で痛い
  • 体を動かすと痛い
  • 押すと痛い
  • 食後に悪化する
  • 夜間や臥位で悪化する

この言語化ができると、鑑別が整理しやすくなります。

心筋虚血を疑いやすい胸痛

心筋虚血を疑う胸痛は、典型的には胸部の圧迫感、締めつけ感、重苦しさとして表現されます。左肩、左腕、顎、背部、心窩部へ放散することもあります。

NICEは、15分以上続く胸痛、悪心や嘔吐、発汗、息切れを伴う胸痛、血行動態不安定を伴う胸痛をACSを示唆する症状として挙げています。※3

ただし、すべてのACSが典型的に出るわけではありません。高齢者、糖尿病患者、女性では症状が非典型的なこともあります。

筋骨格系を疑いやすい胸痛

体動で悪化する、局所を押すと痛い、姿勢で変化する場合は、筋骨格系疼痛を考えます。

ただし、圧痛があるからといって心筋梗塞が完全に否定できるわけではありません。圧痛があっても、冷汗、息切れ、放散痛、リスク因子がある場合は慎重に判断します。

消化器疾患を疑いやすい胸痛

胸やけ、酸っぱいものが上がる、食後や臥位で悪化する、みぞおちの違和感を伴う場合は、逆流性食道炎や食道けいれんなどを考えます。

しかし、心窩部痛としてACSが出ることもあるため、「胃の痛みだと思います」で終わらせないことが重要です。

若手医師がやりがちな落とし穴:心電図が正常なら大丈夫と考える

胸痛診療で若手医師がやりがちな落とし穴の一つが、心電図が正常だから大丈夫と判断してしまうことです。

心電図は非常に重要ですが、心電図だけでACSを完全に否定することはできません。

JCS急性冠症候群ガイドラインでも、急性心筋梗塞の診断において心筋トロポニンが重要なバイオマーカーであることが示されています。
※4 また、ESCの急性冠症候群ガイドラインでも、高感度トロポニンを含めた評価が重要な位置づけになっています。※5

多くのクリニックでは、救急外来のように高感度トロポニンを即時で測定できないことがあります。
その場合、胸痛の緊急性を低く見積もるのではなく、検査環境に限界があるからこそ、紹介判断を早めに行うことが大切です。

クリニック外来では、「ここで全部診断する」よりも、この場所で経過を見てよい胸痛か、病院で評価すべき胸痛かを見極めることが重要です。

急性冠症候群を疑う時の考え方

急性冠症候群、つまりACSは、胸痛診療で最も見逃したくない疾患の一つです。

ACSには、ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症などが含まれます。外来で胸痛を診た時に大切なのは、最初から診断名を当てにいくことではなく、この患者さんは今すぐ病院で評価すべき胸痛なのかを判断することです。

特に、胸部圧迫感、冷汗、悪心、息切れ、左肩や左腕への放散痛がある場合は注意が必要です。また、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、慢性腎臓病、冠動脈疾患の既往がある患者さんでは、同じ胸痛でも危険度が上がります。

症例で考える:60歳男性、糖尿病あり、胸部圧迫感

たとえば、60歳男性。糖尿病、高血圧、喫煙歴があります。
「30分前から胸が重苦しい」「冷や汗が出る」「少し気持ち悪い」と言って来院しました。

この時に、「胸が痛い」という言葉だけを見るのではなく、次のように整理します。

  • 痛みの性質:締めつけ感、圧迫感、重苦しさがあるか
  • 持続時間:数秒ではなく、数分から15分以上続いているか
  • 随伴症状:冷汗、悪心、嘔吐、息切れがあるか
  • 放散痛:左肩、左腕、背部、顎、心窩部に広がるか
  • リスク因子:糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、冠動脈疾患の既往があるか
  • バイタル:血圧低下、頻脈、徐脈、SpO2低下がないか
  • 心電図:ST変化、T波変化、新規の脚ブロック、不整脈がないか

この症例では、糖尿病、高血圧、喫煙歴があり、胸部圧迫感、冷汗、悪心を伴っています。
たとえ心電図で明らかなST上昇がなくても、ACSを否定せず、救急評価につなげる判断が必要です。

ACSを疑う時は、症状だけでなくリスク因子を必ず見る

ACSを疑う時には、症状だけでなく、リスク因子も合わせて考えます。

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脂質異常症
  • 喫煙
  • 慢性腎臓病
  • 冠動脈疾患の既往
  • 家族歴
  • 高齢

たとえば、20代の一過性のチクチクした胸痛と、糖尿病、高血圧、喫煙歴がある60代の胸部圧迫感では、同じ「胸痛」でも意味がまったく違います。

特に糖尿病患者さんでは、典型的な強い胸痛ではなく、息切れ、倦怠感、みぞおちの違和感、吐き気などでACSが見つかることもあります。

HEARTスコアでACSのリスクを整理する

胸痛患者さんのリスクを整理する代表的なスコアに、HEARTスコアがあります。
HEARTは、History、ECG、Age、Risk factors、Troponinの頭文字です。

これはACSを「診断するスコア」ではなく、胸痛患者さんの短期的な心血管イベントリスクを整理するためのスコアです。
救急外来で使われることが多いですが、開業医にとっても、どの要素が危険度を上げるのかを理解するうえで非常に役立ちます。

項目 見るポイント 点数の考え方
H:History
病歴
胸部圧迫感、放散痛、冷汗、労作時発症など、ACSらしい病歴か 0〜2点
E:ECG
心電図
ST低下、T波陰転化、新規変化、明らかな虚血変化がないか 0〜2点
A:Age
年齢
45歳未満、45〜64歳、65歳以上で評価 0〜2点
R:Risk factors
危険因子
糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、家族歴、肥満、冠動脈疾患の既往など 0〜2点
T:Troponin
心筋トロポニン
正常か、軽度上昇か、明らかな上昇か 0〜2点

一般的には、HEARTスコアが低いほど短期的な主要心血管イベントのリスクは低く、高いほど入院や精査が必要なリスクが高いと考えます。

ただし、クリニックではトロポニンを即時測定できないことも多いため、HEARTスコアを完全に計算するというより、病歴、心電図、年齢、危険因子の4つで危険度を上げて考えることが実践的です。

クリニックでは「HEARTスコアを完全に計算する」より「HEARで危険度を感じる」

開業医の外来では、救急外来のように高感度トロポニンをすぐ測定できないことがあります。

そのため、HEARTスコアを完全に点数化できない場面もあります。

しかし、だからといってリスク評価ができないわけではありません。むしろ、トロポニンがないからこそ、History、ECG、Age、Risk factorsを丁寧に見る必要があります。
これらの頭文字をとってHEARと呼びます。

このような胸痛は、外来で長く抱え込まない

  • 胸部圧迫感、締めつけ感、重苦しさがある
  • 冷汗、悪心、嘔吐、息切れを伴う
  • 左肩、左腕、背部、顎、心窩部へ放散する
  • 労作で誘発され、安静で改善する
  • 15分以上持続している
  • 糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙歴がある
  • 心電図で虚血性変化がある、または前回から変化している
  • 高齢者、糖尿病患者で非典型的な症状だが、いつもと様子が違う

上記のような所見がある場合は、心電図でST上昇が明らかでなくても、ACSの可能性を残して考えます。

特に、糖尿病のある患者さんでは、典型的な胸痛ではなく、息切れ、倦怠感、気持ち悪さ、みぞおちの違和感として受診することがあります。

もう一つの症例:68歳女性、みぞおちの違和感と吐き気

68歳女性。高血圧と脂質異常症で通院中です。

「朝からみぞおちが重い」「少し吐き気がある」「胸痛というほどではない」と来院しました。

この時に、胃炎や逆流性食道炎だけで考えると危険です。

高齢、女性、高血圧、脂質異常症があり、みぞおちの違和感や吐き気が続いている場合は、ACSの非典型症状として考える必要があります。

このような場合は、心電図を確認し、前回心電図があれば比較し、症状の持続時間、冷汗、息切れ、放散痛の有無を確認します。少しでもACSが否定しきれない場合は、トロポニンや画像検査が可能な医療機関へつなぐ判断を考えます。

若手医師に覚えておいてほしいのは、ACSは「典型的な胸痛」だけで来るとは限らないということです。
高齢者、糖尿病患者、女性では、息切れ、吐き気、倦怠感、心窩部痛などの非典型症状でもACSを考えることが大切です。

若手医師のドクターによく聞かれる疑問

「でも、胸痛の患者さんを全員紹介していたら、クリニックでは何も診られなくなりませんか」

その感覚はとてもよく分かります。

確かに、胸痛のすべてを救急搬送していたら、患者さんにも病院にも負担がかかります。

ただし、開業医として大切なのは、紹介を減らすことではありません。紹介すべき胸痛を見逃さず、経過を見られる胸痛は説明と再診目安を明確にすることです。

つまり、紹介するかしないかの二択ではなく、危険度を分ける力が必要です。

ACSを見逃さないための外来判断フロー

  1. まずバイタルを確認する。血圧、脈拍、SpO2、呼吸数、意識状態を見る。
  2. 胸痛の性質を聞く。圧迫感、締めつけ感、持続時間、放散痛、労作との関係を確認する。
  3. 随伴症状を確認する。冷汗、悪心、嘔吐、息切れ、失神がないか確認する。
  4. リスク因子を確認する。糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、CKD、冠動脈疾患の既往を確認する。
  5. 心電図を確認する。ST変化、T波変化、不整脈、前回心電図との差を確認する。
  6. ACSが否定しきれない場合は、トロポニンや画像検査が可能な医療機関へ紹介する。
  7. 冷汗、息切れ、バイタル異常、持続する胸部圧迫感がある場合は、スコアに関係なく救急搬送を考える。

胸痛診療では、スコアを使うことも大切ですが、スコアはあくまで判断を補助する道具です。

最終的には、目の前の患者さんの表情、バイタル、症状の持続、リスク因子、心電図を総合して判断します。

特にクリニックでは、トロポニンや緊急CTがすぐに使えないこともあります。だからこそ、自院で抱えてよい胸痛か、病院で評価すべき胸痛かを見極める力が必要です。

大動脈解離を疑う胸痛

大動脈解離は、頻度としてはACSより少ないですが、見逃すと致命的になり得る疾患です。

突然発症の激しい胸背部痛、引き裂かれるような痛み、移動する痛み、左右の血圧差、神経症状、失神、ショックを伴う場合には、大動脈解離を疑います。

このような場合、外来で長く様子を見るべきではありません。

特に、高血圧の既往がある患者さんで、突然の胸背部痛を訴える場合は注意が必要です。

肺塞栓を疑う胸痛

肺塞栓を疑う時に使いたいプレディクションルール

肺塞栓は、胸痛や息切れで受診することがありますが、症状だけで診断するのは簡単ではありません。
そこで役立つのが、Wellsスコア、PERCルール、Dダイマーを組み合わせた考え方です。

ただし、これらは肺塞栓を「診断するための点数表」ではありません。
あくまで、検査前確率を整理し、Dダイマーで除外できるのか、造影CTなどの画像検査へ進むべきかを判断するための道具です。

実際の外来では、まず「肺塞栓を疑う状況か」を考えます。
そのうえで、低リスクならPERCルール、中等度以上の疑いがあればWellsスコアやDダイマー、必要に応じて救急紹介・造影CTへつなげる流れで考えます。

まず肺塞栓を疑う症状・背景を確認する

  • 突然の息切れ、呼吸困難
  • 呼吸で悪化する胸痛
  • 頻脈
  • SpO2低下
  • 血痰
  • 片側下肢の腫れ、痛み
  • 長時間の移動、手術後、長期臥床
  • 悪性腫瘍、妊娠・産後、経口避妊薬、深部静脈血栓症や肺塞栓の既往

これらがある場合は、単なる筋肉痛や不安発作として片づけず、肺塞栓を鑑別に入れます。
特に、胸痛に息切れ、頻脈、SpO2低下、片側下肢腫脹が重なる時は注意が必要です。

Wellsスコアで、肺塞栓の検査前確率を整理する

Wellsスコアは、肺塞栓を疑う患者さんの検査前確率を整理するための代表的なルールです。
項目には、深部静脈血栓症を疑う所見、肺塞栓が最も疑わしいかどうか、頻脈、最近の手術や臥床、肺塞栓・深部静脈血栓症の既往、血痰、悪性腫瘍などが含まれます。

Wellsスコアの項目 点数 外来での見方
深部静脈血栓症を疑う臨床所見がある 3点 片側下肢の腫れ、圧痛、左右差など
他の診断より肺塞栓が最も疑わしい 3点 症状、リスク、バイタルから肺塞栓を第一に考える状況
心拍数が100回/分を超える 1.5点 胸痛と頻脈がセットなら要注意
最近の手術、または長期臥床 1.5点 手術後、入院後、長時間動けない状態など
肺塞栓または深部静脈血栓症の既往 1.5点 既往がある場合は再発リスクを意識する
血痰 1点 肺炎や気管支炎だけでなく肺塞栓も鑑別に入れる
悪性腫瘍 1点 治療中、または最近治療歴がある場合は特に注意

実務上は、Wellsスコアが低ければDダイマーで除外を検討し、中等度以上または臨床的に強く疑う場合は、造影CTなどの画像検査が可能な医療機関へつなぐことを考えます。

ただし、スコアが低いから絶対に大丈夫という意味ではありません。バイタル異常や強い呼吸困難がある場合は、スコアに頼りすぎず救急評価を優先します。

低リスクならPERCルールで「検査しなくてよいか」を考える

PERCルールは、肺塞栓の検査前確率が低い患者さんで、さらに検査を進める必要があるかを判断するためのルールです。
大切なのは、PERCは低リスクの人にだけ使うという点です。

PERCルールの確認項目 確認する内容
年齢 50歳未満
心拍数 100回/分未満
酸素飽和度 SpO2 95%以上
片側下肢腫脹 なし
血痰 なし
最近の手術・外傷 なし
肺塞栓・深部静脈血栓症の既往 なし
ホルモン使用 経口避妊薬などのエストロゲン使用なし

低リスクで、PERCの項目をすべて満たす場合には、肺塞栓の可能性はかなり低くなり、Dダイマーや画像検査を行わない判断も検討されます。
一方で、1つでも満たさない項目がある場合や、そもそも低リスクと言い切れない場合は、PERCで除外せず、Dダイマーや紹介を考えます。

Dダイマーは「陽性なら肺塞栓」ではなく「陰性なら除外に使う」検査

Dダイマーは、血栓が作られて分解される過程で上昇する検査です。
肺塞栓や深部静脈血栓症で上昇することがありますが、感染症、炎症、悪性腫瘍、妊娠、高齢、術後などでも上昇します。

つまり、Dダイマーが陽性だから肺塞栓と診断するのではありません。
低〜中等度リスクの患者さんで、Dダイマーが陰性であれば肺塞栓を除外しやすくなる、という使い方をします。

高リスクの患者さんでは、Dダイマー陰性だけで安心せず、画像検査や救急評価を優先します。
特に、バイタル不安定、強い呼吸困難、SpO2低下、ショック、失神がある場合は、外来で検査結果を待つよりも、速やかに高次医療機関へつなぐ判断が必要です。

外来で使いやすい肺塞栓評価の流れ

  1. まずバイタルを確認する。SpO2、心拍数、血圧、呼吸数を必ず見る。
  2. 胸痛の性質を確認する。呼吸で悪化する胸痛、突然の息切れ、血痰がないか確認する。
  3. 片側下肢腫脹、長時間移動、手術後、悪性腫瘍、妊娠、経口避妊薬、VTE既往を確認する。
  4. 低リスクと考えられる場合のみ、PERCルールで除外できるか検討する。
  5. PERCで除外できない場合や中等度リスクでは、Dダイマーを検討する。
  6. Dダイマー陽性、または臨床的に肺塞栓を強く疑う場合は、造影CTなどが可能な医療機関へ紹介する。
  7. バイタル不安定、強い呼吸困難、SpO2低下、失神、ショックがあれば、スコアに関係なく救急搬送を考える。

若手医師に覚えておいてほしいポイント

  • 肺塞栓は、胸痛だけでなく息切れや頻脈、SpO2低下から疑う
  • PERCは「低リスク」と判断できる患者さんにだけ使う
  • Wellsスコアは、肺塞栓の検査前確率を整理する道具
  • Dダイマーは、陽性で診断する検査ではなく、陰性で除外に使う検査
  • バイタルが不安定なら、スコアより救急評価を優先する

肺塞栓診療で大切なのは、スコアを暗記することではありません。
胸痛、息切れ、頻脈、SpO2低下、片側下肢腫脹、血栓リスクをセットで考える習慣を持つことです。
この習慣があるだけで、外来での見逃しリスクを下げることにつながります。

気胸を疑う胸痛

気胸は、突然の片側胸痛と呼吸苦で発症することがあります。

若年やせ型男性に多い印象がありますが、慢性肺疾患のある高齢者にも起こります。

胸痛に加えて、呼吸音の左右差、SpO2低下、呼吸苦があれば気胸を疑います。緊張性気胸が疑われる場合は、救急対応が必要です。

逆流性食道炎、肋間神経痛、筋骨格系疼痛も多い

一方で、外来で診る胸痛の中には、緊急性の高い疾患ではないものも多くあります。

  • 逆流性食道炎
  • 肋軟骨炎
  • 筋筋膜性疼痛
  • 帯状疱疹の前駆痛
  • 不安発作、過換気

これらは、患者さんにとっては非常に不安な症状です。

「心臓ではなさそうです」だけでは不十分です。
なぜそう考えるのか、どのような時に再受診すべきかを説明する必要があります。

患者さんへの説明例

「現時点では、心電図や症状の経過から、すぐに心筋梗塞を強く疑う状態ではなさそうです。
ただし、胸の痛みは変化することがあります。
痛みが強くなる、冷汗が出る、息苦しい、左腕や背中に広がる、15分以上続く、安静でも改善しない場合は、すぐに救急受診してください。」

このように伝えることで、患者さんは安心しながらも、危険な変化に気づきやすくなります。

胸痛診療で使いやすい外来の型

胸痛診療は、毎回ゼロから考えると迷います。

私は、若手医師の先生には、次のような型で考えることをおすすめしています。

胸痛外来の5つの判断軸

  • 1. バイタルは安定しているか
  • 2. 痛みの性質は虚血性か、突然発症か、呼吸性か
  • 3. 冷汗、息切れ、悪心、放散痛などの随伴症状はあるか
  • 4. 高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患などのリスク因子はあるか
  • 5. クリニックで経過観察できるか、高次医療機関で評価すべきか

この5つを毎回確認するだけで、胸痛診療の質は大きく変わります。

特に開業後は、忙しい外来の中で判断しなければなりません。だからこそ、問診、バイタル、身体診察、心電図、紹介判断の流れを自分の中に持っておくことが大切です。

開業医が胸痛を診られることは、患者さんの安心につながります

胸痛診療を学ぶメリットは、単に救急疾患を見逃さないためだけではありません。

開業後のクリニック運営を考えた時にも、胸痛に対して適切な初期対応ができることは大きな強みになります。

患者さんから見ると、「胸が痛い時も、まず相談できるクリニック」という安心感につながります。

もちろん、急性冠症候群や大動脈解離、肺塞栓などが疑われる時は、速やかに救急へつなぐ必要があります。

しかし、胸痛のすべてが救急疾患ではありません。逆流性食道炎や筋骨格系疼痛、不安発作などを含めて、患者さんに分かりやすく説明できると、地域のかかりつけ医としての信頼は高まります。

胸痛を診られる医師は、開業後に強い

開業後は、患者さんが「先生は循環器専門ではないから」と遠慮して相談するわけではありません。
胸の痛み、息苦しさ、動悸、腹痛、発熱、皮疹、小児の症状など、さまざまな訴えで来院されます。

その時に必要なのは、すべてを専門医レベルで完結させる力ではありません。
どこまで自院で診るか、どこから専門医や救急へつなぐかを判断する力です。

胸痛診療は、その判断力を鍛えるうえで非常に重要なテーマです。

ここでよくある不安:胸痛は怖いので、全部病院に送った方が安全では?

若手医師の先生からすると、胸痛は怖い症状だと思います。

「見逃すくらいなら全部病院に紹介した方が安全ではないか」と感じるのも自然です。

ただ、地域医療の現場では、患者さんの症状を整理し、緊急性を判断し、必要な時に適切につなぐことが求められます。

すべてを自院で抱える必要はありません。

一方で、すべてを紹介してしまうと、患者さんにとっても、病院にとっても負担が大きくなります。

だからこそ、開業前に学んでおくべきなのは、胸痛を一人で完結させる力ではなく、胸痛の危険度を分ける力です。

胸痛を含めた幅広い外来診療を学びたい先生へ

これから開業を考えている先生にとって、胸痛は避けて通れない症状です。

消化器内科、外科、皮膚科、整形外科、救急、健診業務などを専門にしてきた先生でも、開業後は「胸が痛い」「息が苦しい」「動悸がする」「みぞおちが痛い」といった相談を受けます。

その時に必要なのは、専門医と同じ検査や治療をすべて行う力ではありません。

プライマリケア医として、症状を整理し、危険な疾患を見逃さず、必要な時に高次医療機関へつなぐ力です。

あまが台ファミリークリニックでは、医師歴25年以上の家庭医療専門医のもとで、胸痛、腹痛、発熱、皮膚疾患、小児疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、肥満治療など、専門分野以外のプライマリケア疾患を幅広く学ぶことができます。

胸痛を見逃さない外来判断力を、実際の現場で学びたい先生へ

あまが台ファミリークリニックの開業前研修では、胸痛、腹痛、皮膚疾患、小児科、生活習慣病、総合診療、クリニック経営、集患、スタッフ採用まで、実際の外来を通して学べます。

まとめ:胸痛診療は、開業前に必ず学んでおきたい外来判断です

胸痛を診た時に大切なのは、最初から診断名を当てにいくことではありません。

まずは、命に関わる胸痛を見逃さないことです。

急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓、気胸などは、外来で経過を見るべきではない場合があります。

一方で、胸痛のすべてが心臓由来ではありません。逆流性食道炎、筋骨格系疼痛、不安発作、帯状疱疹の前駆痛などもあります。

だからこそ、プライマリケア医には、危険な胸痛を拾い上げる力と、よくある胸痛を整理して説明する力の両方が必要です。

若手医師の先生には、開業前にぜひ、胸痛を含めた幅広い外来診療の判断軸を身につけてほしいと思います。

外来で本当に使えるプライマリケアの判断力を学びたい先生へ

開業後は、患者さんが専門科を選んで症状を相談してくるわけではありません。

胸痛、腹痛、発熱、皮疹、小児の症状、生活習慣病、睡眠の悩み、肥満の相談など、さまざまな訴えで来院されます。

その時に必要なのは、すべてを自院で完結する力ではなく、適切に初期評価し、説明し、必要な時に専門医や救急へつなぐ力です。

あまが台ファミリークリニックでは、医師歴25年以上の家庭医療専門医のもとで、胸痛を含む幅広い外来診療、クリニック経営、集患、スタッフ採用、組織づくりを、実際の現場で学ぶことができます。

開業後に困らない外来診療力を、今のうちに身につけませんか?

胸痛、腹痛、皮膚疾患、小児科、生活習慣病、総合診療、クリニック経営、集患、スタッフ採用まで。開業前に、実際の現場で学ぶことで、将来の不安を減らすことができます。

無理な勧誘ではなく、先生ご自身の将来像に合うかどうかを確認する機会としてご相談ください。

参考文献

  • ※1 Writing Committee Members. 2021 AHA/ACC/ASE/CHEST/SAEM/SCCT/SCMR Guideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain. Journal of the American College of Cardiology. 2021. https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2021.07.052
  • ※2 American Heart Association. 2021 Chest Pain Guideline Slide Set. https://professional.heart.org/en/-/media/PHD-Files-2/Science-News/2/2021/2021-Chest-Pain-Guideline-Slide-Set-PDF-102821.pdf
  • ※3 National Institute for Health and Care Excellence. Recent-onset chest pain of suspected cardiac origin: assessment and diagnosis. NICE guideline CG95. https://www.nice.org.uk/guidance/cg95
  • ※4 Kimura K, et al. JCS 2018 Guideline on Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndrome. Circulation Journal. 2019. https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-19-0133/_html/-char/en
  • ※5 Byrne RA, et al. 2023 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes. European Heart Journal. 2023. https://www.escardio.org/guidelines/clinical-practice-guidelines/acute-coronary-syndromes
  • ※6 Konstantinides SV, et al. 2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of acute pulmonary embolism. European Heart Journal / European Respiratory Journal. https://www.escardio.org/guidelines/clinical-practice-guidelines/all-esc-practice-guidelines/acute-pulmonary-embolism-diagnosis-and-management-of/
  • ※7 NICE. Venous thromboembolic diseases: diagnosis, management and thrombophilia testing. NICE guideline NG158. https://www.nice.org.uk/guidance/ng158/chapter/Recommendations
  • ※8 American College of Physicians. Evaluation of Patients With Suspected Acute Pulmonary Embolism: Best Practice Advice. https://www.acponline.org/about-acp/acp-global-engagement/acp-global-newsletter/global-newsletter-archive/november-2015/acp-clinical-practice-guidelines
  • ※9 MDCalc. HEART Score for Major Cardiac Events. https://www.mdcalc.com/calc/1752/heart-score-major-cardiac-events
  • ※10 American College of Cardiology. Latest in ED Risk Stratification of Chest Pain: hs-cTn and Risk Scores. https://www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2021/04/30/13/47/latest-in-ed-risk-stratification-of-chest-pain
この記事の監修者
細田 俊樹
  • 医療法人社団緑晴会 あまが台ファミリークリニック 理事長
  • 日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医
  • 日本糖尿病学会正会員、日本睡眠学会所属、日本肥満学会所属

年間15,000人以上の患者さんを診察している総合診療専門医。
総合診療という専門分野を生かし、内科、皮膚科、小児科、生活習慣病まで様々な病気や疾患に対応している。
YouTubeでよくある病気や患者さんの疑問に対して解説している